現在のAIブームが落ち着いた後に何が残るのか。
これを考える上で、かつてのドットコム・バブルの歴史的経緯は非常に参考になります。
当時、市場の覇権を握ったのは技術そのものではなく、AmazonやGoogleのように技術を用いて「実利」を生み出した企業でした。同様の淘汰がAI分野でも予測される今、今後生き残る事業にはどのような特徴があるのでしょうか。
主に以下の3つの視点で整理できます。
1. 「AI企業」という言葉が消え、「インフラ」になる段階
インターネット・バブルの最大の教訓は、「技術そのものを売る会社」から「技術を前提としたサービスを提供する会社」へのシフトです。
- バブル期(現在):
「AIチャットボット」「AI画像生成ツール」など、AIの機能そのものを切り売りする「ラッパー(Wrapper)サービス」が乱立。これらは大手プラットフォーム(OpenAIやGoogleなど)に機能吸収され、淘汰される可能性が高いです。 - ポストAI時代:
AIが電気やインターネットのように「見えないインフラ」になります。ユーザーはAIを使っていると意識せず、「圧倒的に便利になった体験」だけを享受します。
生き残る事業の具体例:
- バーティカル(特化型)SaaS:
汎用的なAIではなく、医療、法律、建設、製造など、特定業界の「泥臭い業務」を完結させるAI。- 例: 判例検索だけでなく、契約書作成からリスク判定まで完結するリーガルテック。
- 例: 設計図を読み込み、資材発注から工程管理まで自動化する建設DX。
2. 「ビット(デジタル)」から「アトム(物理)」への回帰
ドットコム・バブル後のWeb 2.0(SNSやスマホアプリ)はデジタル空間での革命でしたが、ポストAI時代は「物理世界(Real World)」への介入がカギになります。
現在の生成AIは「言葉や画像」を作るのが得意ですが、実用性の本丸は「行動」です。
生き残る事業の具体例:
- AIロボティクス・自動化: 人手不足が深刻な「物理的作業」をAIが脳となって代替する分野。
- 例: 単純な配膳ロボットではなく、調理から片付けまで行う家庭用/業務用ロボット。
- 例: 複雑な交通状況を判断できる完全自動運転による物流網。
- エージェント型サービス(行動代行): 検索して終わりではなく、「予約」「購入」「交渉」まで完了させるAI。
- 例: 「来週の旅行プランを立てて」と言うだけで、ホテル、航空券、レストランの予約まで全て完了している旅行代理店AI。
3. 「人間性(ヒューマン・タッチ)」の価値再定義
インターネット普及後、逆に「ライブ体験」や「アナログレコード」の価値が上がったように、AIが普及すればするほど、「AIではないこと」自体が価値を持つ事業が生まれます。
生き残る事業の具体例:
- 「真実」と「信頼」を保証するサービス: AIによるディープフェイクや大量のスパムコンテンツが溢れるため、「これが人間によるものである」「事実である」ことを証明する技術やメディア。
- 例: ブロックチェーン技術を用いたコンテンツのオリジナリティ証明・認証機関。
- 高付加価値の「対人」サービス: 「効率」はAIに任せ、「感情・共感」に特化したサービス。
- 例: AIが診断や事務処理を行い、医師やカウンセラーは「対話とケア」に100%時間を使うハイブリッド医療・メンタルケア。
- 例: 教育において、知識伝達はAIが行い、コーチングやモチベーション管理を人間が行うスクール。
| 比較項目 | ドットコム・バブル (2000年前後) | AIバブル (現在〜近未来) |
| バブル崩壊のトリガー | 収益化の欠如、インフラ (回線速度)の未整備 | 推論コストの高止まり、著作権・規制問題、期待値との乖離 |
| 淘汰されるもの | 単に「.com」をつけただけの通販・メディア | 単に「GPTのAPI」を繋いだだけのチャットツール |
| 覇者となるもの | Amazon(物流×ネット) Google(検索×広告) | Action Model(物理操作×AI) Personal Agent(個人の秘書化) |
| 本質的な変化 | 「情報の流通コスト」がゼロになった | 「知能・判断のコスト」がゼロになる |
結論:残るのは「ラストワンマイル」を埋める事業
AIバブルが過ぎた後に残るのは、「AIが出した答えを、責任を持って実行・完遂するサービス」です。
インターネットが「情報の非対称性」をなくしたように、AIは「技能の非対称性」をなくします。その結果、誰でもプロ並みの出力ができるようになるため、差別化要因は「独自のデータを持っているか」あるいは「物理的な実行力(物流、店舗、ハードウェア)を持っているか」のどちらかに集約されていくでしょう。




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